現場に長く出ていると、図面通りに進まない工事にたびたび出くわす。設計上は「土台があって、柱を立てて、屋根をかければ家が建つ」という一本道のはずが、実際の現場では地盤そのものの性質が変わってしまっていることがある。今回取り上げる2026年9月11日発表の「第17回出生動向基本調査」は、まさにその手の話だ。恋愛・結婚という「工事」の前提となる地盤そのものが変わってきている、という報告書だと読んでいる。
見出しだけを追えば「若者の結婚離れ」で終わる話だが、数字を分解すると、マッチングアプリという現場で日々作業をしている身として見過ごせない矛盾が浮かび上がってくる。結論を先に言っておく。「結婚・交際を望む人という母数」は縮小しているのに、「実際に結婚した人の中でのマッチングアプリ経由の割合」は過去最高水準に達している。この二つは同時に成立している。片方だけを見て語ると、現場の実態を見誤る。
地盤調査の結果はこうだった
結婚意思そのものが下がっている
今回の調査でまず押さえておきたいのは、18〜34歳の未婚者に「一生結婚するつもりはない」と答えさせた項目だ。男性24.0%、女性21.5%がそう回答している。逆に「いずれ結婚するつもり」は男性75.1%、女性77.8%にとどまり、男女とも初めて8割を下回った。
さらに、交際相手がおらず「交際を望んでいない」と答えた人も男性35.7%、女性35.3%に上る。これは「恋人ができない」層とは別に、「そもそも恋人を作る気がない」層が未婚者の中に一定数存在するということだ。現場で言えば、「工事を発注する気がない土地」がかなりの割合で混じっている、というイメージに近い。
ただし、ここで慌てて「もう結婚市場は終わりだ」と断定するのは早計だ。「一生結婚しない」と答えた人の中にも、将来的に意思が変わる可能性を認めている人がかなり含まれている。男性で約4割、女性で5割弱がそう回答したと報じられている。つまり「男性の4人に1人が結婚を完全に放棄した」という読み方は、地盤調査の数値を読み違えているのと同じだ。むしろ正しく読むなら、「今この瞬間は結婚を選択肢に入れていない」人と「一生入れない」人が混在しており、その境界線は本人にとってもまだ固まっていない、というのが実態に近い。
男女差という見落とされやすい変数
また、男女差にも目を向けておく必要がある。「一生結婚するつもりはない」という回答は男性のほうがやや高いが、「交際を望まない」割合は男女でほぼ同水準だ。一方で、将来的に意思が変わる可能性を認める割合は女性のほうが高い。この非対称性は、マッチングアプリ上での男女のやり取りのテンポの違いとしても表れやすい。男性側が「もう結論は出ている」と決めつけて動きを止めてしまうと、実際にはまだ迷っている相手を早々に取りこぼしてしまう可能性がある。
一方で、ネット経由の「着工」は増えている
ところが同じ調査資料には、まったく逆方向のデータも含まれている。2020〜2024年に結婚した夫婦の出会いのきっかけを見ると、次のような内訳になった。
- 職場・仕事を通じて:20.9%
- 友人・兄弟姉妹などを通じて:20.2%
- インターネット(マッチングアプリ等):20.2%
「ネットで出会って結婚した」割合が、「友人の紹介で結婚した」割合とほぼ並んだ。前回調査からの伸び幅も大きく、もはやマッチングアプリ経由の結婚を「特殊な出会い方」と呼べる段階ではない。別の調査、こども家庭庁が実施した40歳未満の既婚者2,000人を対象にした調査でも、結婚相手との出会いがマッチングアプリだったと答えた人が25.1%に達している。デジタル庁もこの結果を紹介し、本人確認強化などの施策を進めている。
現場の感覚で言えば、「発注件数そのものは減っているのに、実際に着工した工事のうち、ネット経由の受注比率だけは伸び続けている」という状態だ。市場は縮小しながら、その中の一部の経路だけが太くなっている。この二つのグラフを一つの図に重ねると、「全体の線は右肩下がり」なのに「ネット経由の線だけは右肩上がり」という、一見矛盾したグラフが出来上がる。どちらも同じ調査から出た数字であり、どちらかが誤りというわけではない。
「恋愛離れ」ではなく「恋愛市場の二極化」と読む
この二つの数字を並べると、単純な「マッチングアプリのせいで恋愛が難しくなった」という因果関係の物語では説明がつかない。むしろ起きているのは分断だ。恋愛・結婚を積極的に求めない層は増えている。しかし、結婚を望む層にとって、マッチングアプリは職場や友人紹介と並ぶ主要な出会いのインフラになった。市場全体は縮小しながら、その中心にいる「本気で結婚したい層」にとってのアプリの重要性はむしろ高まっている。
これは、アプリを使っていて「マッチしても話が進まない」「急に返信が途絶える」「会うところまでいかない」と感じている人にとって、一つの説明になる。同じアプリの中に、結婚を前提にした人、恋人だけ欲しい人、暇つぶしで登録している人、再婚は望まないがパートナーは欲しい人など、目的の異なる利用者が混在している。目的が噛み合わなければ、マッチしても関係が進まないのは当然の帰結であり、必ずしも自分に原因があるとは限らない。現場で言えば、発注者と施工者の希望する仕様がそもそも違うのに、同じ見積もり画面の上でやり取りをしているようなものだ。
この「目的の混在」は、年齢が上がるほど深刻になりやすい。20代であれば「まだ将来を決めていない」ことが自然に許容されるが、40代・50代になると、同じ「将来はまだ決めていない」という態度でも、相手からは「時間を無駄にされた」と受け取られやすくなる。市場全体が二極化しているという前提を踏まえると、中高年層こそ、自分がどちら側に属しているのかを早期にプロフィールや会話の中で明示する必要がある。
また、結婚意思そのものの低下の背景には、経済的な不安や子育て負担への懸念、一人でも生活が成り立つという実感、理想の相手にこだわりたい気持ちなど、複数の要因が重なっていると考えるのが自然だ。「出会いがないから結婚できない」という単一の説明で今回の数字をすべて説明しようとすると、無理が出る。
比較のしやすさが生む「一次選考」という壁
もう一つ、アプリ特有の構造的な問題がある。スマートフォン上では大量の異性のプロフィールを短時間で比較できる。その結果、「この人でいい」ではなく「もっと条件のいい人がいるかもしれない」という判断が起きやすい。写真、年齢、年収、身長、居住地、趣味といった情報が一覧化されることで、実際に会って初めてわかる人柄よりも先に、スペックによる一次選考が行われる。これは検索型サービスの構造上、自然に発生する現象であり、個人の努力不足の問題ではない。
この結果、皮肉なことに「出会える人数」は増えたにもかかわらず、「一人を選ぶ難易度」はむしろ上がるという逆説が起きる。出会いの不足と、選択の難しさは、もはや同じ問題ではない。現場に例えるなら、見積もりを取れる業者の数は増えたのに、どの業者に発注するかで余計に迷うようになった、という状態に近い。
中高年層のアプリ利用でよく聞かれる「年収や年齢のフィルターで最初から弾かれている気がする」という感覚も、この一次選考の構造そのものだ。フィルターを恨んでも仕方がない。むしろ、フィルターを通過した後の限られたやり取りの中で、条件では見えない部分──会話のテンポ、価値観の一致度、生活スタイルの相性──をいかに早く相手に伝えるかが勝負になる。フィルターは「選ばれるかどうか」を決めるが、その先で「続くかどうか」を決めるのはスペックではない。
中高年がこの数字を読むときの注意点
若年層の地盤データをそのまま流用しない
ここで一つ、はっきりさせておきたい。今回の調査は基本的に若年〜壮年層を対象にしており、未婚者の結婚意思に関する主要な集計は18〜34歳が中心だ。したがって、この数字をそのまま「50代・60代でも同じことが起きている」と読み替えることはできない。若年層の地盤調査データを、そのまま中高年の施工計画に流用するのは危険だ。
中高年層のマッチングアプリ利用を考える際は、「結婚」と「恋愛・パートナー探し」を分けて考える必要がある。子どもを持つことを前提としない、籍を入れない、同居はせず別居型のパートナーを希望する、再婚は望まないが話し相手や生活の伴走者は欲しい、といった関係のニーズは、今回の調査が主に想定している「結婚するかどうか」という枠組みとは別の軸で存在している。つまり中高年層の場合、「結婚意思の低下」というデータをそのまま持ち込むよりも、「求めている関係性そのものが多様化している」という視点で捉え直したほうが実態に近い。
「結婚」と「パートナー探し」を分けて考える
言い換えれば、若年層の調査結果は「結婚するかしないか」という二択で語られがちだが、中高年層では「籍は入れないが生活は共にしたい」「恋人はほしいが結婚や同居は望まない」といった中間的な選択肢がすでに一定数存在している。この中間層の存在を無視して、若年層向けの統計をそのまま当てはめると、需要を過小評価することになりかねない。中高年のマッチングアプリを語る記事の多くが、若年層向けの婚活論をそのまま流用してしまいがちなのは、この違いを見落としているからだ。
現場でよく見る「噛み合わないパターン」
実際のやり取りを見ていると、目的のズレが原因ですれ違うパターンにはいくつかの型がある。個別の相手を特定できる形では書けないが、典型的な構図として次のようなものが繰り返し起きている。
一つは、片方が「まずは友人関係から時間をかけて」というペースを望んでいるのに、もう片方が「早く会って早く見極めたい」というペースで動いているケースだ。どちらが正しいという話ではなく、単にペースの前提が違う。もう一つは、片方が「同居・入籍を含めた結婚」を想定しているのに、もう片方が「別居のまま、パートナーとして支え合う関係」を想定しているケースだ。会話の序盤ではどちらも「真剣にお付き合いしたい」という同じ言葉を使うため、実際に踏み込んだ話をするまで違いに気づきにくい。
こうしたすれ違いは、本人同士の相性の問題というより、市場側の構造の問題として理解したほうが対策が立てやすい。目的が違う相手と長くやり取りを重ねてしまうこと自体が、時間と気力の最大の消耗要因になる。
二極化時代のプロフィール戦略
立ち位置を早く明示する
ここまでの分析を踏まえると、中高年がマッチングアプリで消耗を減らすための方向性は、次の3点に集約できる。
- プロフィールの冒頭で、結婚前提か、パートナー探しか、まずは話し相手からか、自分の立ち位置を明確に書く
- 会う前のやり取りの中で、相手が想定している関係の形(同居・別居、再婚の可否、子どもの有無への希望など)を早めに、ただし詰問にならない形で確認する
- フィルターで弾かれること自体を気にしすぎず、通過した後の限られた母数の中でのやり取りの質を上げることに時間を割く
これは「マッチング数を増やすテクニック」ではなく、「噛み合わない相手との時間を減らすテクニック」だ。市場が縮小し二極化している以上、数を追う戦略よりも、絞り込みの精度を上げる戦略のほうが、中高年層には合っている。
「マッチングアプリで出会えないのは当然」なのか
ここまでの整理を踏まえると、「恋愛したい人が3人に1人しかいない時代に、マッチングアプリで出会えないのは当然だ」という結論に飛びつきたくなる。しかし、この結論は正確ではない。
市場が縮小し分断しているからこそ、逆に「結婚意思がある人同士」「交際目的が一致する人同士」を効率よく接続する装置としてのマッチングアプリの価値は上がっている。マッチングアプリは「結婚を増やす装置」というより、「結婚する意思がある人同士を効率よく結びつける装置」に性格を変えつつある。中高年であれば、「パートナーが欲しい人同士」「別居婚でよいと考える人同士」を結びつける装置、と言い換えてもいい。
したがって重要なのは、アプリをやめることでも、とにかく数を打つことでもない。年齢・結婚意思・交際目的が一致する相手を、いかに早い段階で見極めるかという点だ。市場が分断されているという前提に立てば、プロフィールの読み方や初期のやり取りで相手の目的を見抜く精度こそが、以前より重要になっている。現場でいう「発注前の仕様確認」を、これまで以上に早い段階でやる必要がある、ということだ。
具体的には、プロフィール文の中に「結婚前提」「まずはお友達から」「別居婚も視野」といった自分の立ち位置を、遠回しにではなくはっきり書いておくこと。そして、やり取りの初期段階、できれば会う前の数往復の中で、相手の温度感を探る質問を一つ入れておくこと。これだけで、目的が噛み合わない相手との時間の浪費をかなり減らせる。二極化した市場では、「合わない相手を早く見抜く力」が「多くの人にアプローチする力」よりも重要になってきている。
まとめ
- 18〜34歳の未婚者のうち「一生結婚するつもりはない」は男性24.0%、女性21.5%。「いずれ結婚するつもり」は男女とも初めて8割を下回った
- 交際自体を望まない人も男女とも35%前後存在する
- 一方、2020〜2024年に結婚した夫婦の出会いのきっかけは、ネット経由(マッチングアプリ等)が20.2%で、友人紹介とほぼ並んだ
- 恋愛離れとアプリ経由の結婚増加は矛盾せず、「恋愛市場の二極化」として理解すべき現象である
- 今回の調査は主に18〜34歳が対象であり、中高年層にそのまま当てはめることはできない。中高年では「結婚」と「パートナー探し」を分けて考える必要がある
- マッチングアプリで話が進まないのは、必ずしも本人の問題ではなく、目的の異なる利用者が混在する市場構造の問題でもある
- 二極化した市場では、条件で弾かれることを恨むより、自分の目的を早期に明示し、相手の温度感を早く見抜く方が有効である
今回の考察は、一次資料である国立社会保障・人口問題研究所の調査結果と、それを報じた複数メディアの内容を突き合わせて整理したものであり、筆者自身の見立てを含む。数字そのものは調査に基づくが、「二極化」という解釈や中高年層への当てはめ方は、マッチングアプリの現場を見てきた立場からの考察であることを断っておく。
出典
- 国立社会保障・人口問題研究所「第17回出生動向基本調査」
- テレビ朝日ニュース「いずれ結婚するつもり、初の8割未満」
- TBS NEWS DIG「夫婦の知り合ったきっかけ、マッチングアプリなど初の2割超え」
- デジタル庁「マッチングアプリでの本人確認強化に関する発表」
